ECM 設立55周年記念 特集


ECM(Editions of Contemporary Music)は、1969年ミュンヘンでマンフレートアイヒャーによって設立。「沈黙の次に美しい音」をテーマに、コンテンポラリージャズから現代音楽まで扱うヨーロッパ屈指の名門レーベル。

「ブルーノートとECMの関係性」
アメリカのジャズレーベルといえば「ブルーノート」が有名だが、ヨーロッパのジャズレーベルは「ECM」と言うほど、名門「ブルーノート」と比較されることも少なくない。モダンジャズの象徴は「ブルーノート」、コンテンポラリージャズの象徴は「ECM」という見方もできる。しかも創設者はともにドイツ人だったのだ。
ECMを創設した1969年は、既にブルーノートがリバティーに買収され、創立30周年を迎えた年だった。アルフレッドライオンも引退した後で、まるでハードバップのブルーノートがその一時代の役目を終え、来るべきコンテンポラリージャズのECMにトーチを渡した形になった。ちょうど5年前、ECMが50周年を迎えた年、奇しくもブルーノートは70周年だった。ともに一貫した音楽とサウンド、芸術性の高いジャケットデザインが象徴的で、バウハウスのモダニズムの影響を受けたフランシスウルフとリードマイルズによるブルーノートのジャケットデザイン、片やECMはバーバラヴォユルシュを中心に"ジャズらしからぬ"美しい写真やアートワークを起用した。そしてブルーノートの伝説的エンジニアRVGことルディヴァンゲルダーの録音とカッティング技術は、まるで「すぐ目の前でジャズメンが演奏している」ように錯覚してしまうほど、ジャズ録音の象徴として今もなおレコードコレクターやオーディオファンから絶大な人気を誇る。片やECMはそれまでのジャズの常識を覆す、まるでコンサート・ホールでの演奏を聴いているようなリヴァーブの効いた透明感あふれるステレオ・サウンド。真逆を行く録音技術だが、ブルーノートもECMも決してナマ音ではなく、いわゆる「録音芸術」の域に達している。全くタイプの違う音楽だが、レーベルのカラーを象徴する統一されたサウンド個性を持ち、ともに時代の先端を歩んできたジャズを代表するレーベルと言う共通点がある。

そのECM創始者でありカリスマプロデューサーでもあるマンフレートアイヒャーが少年時代に出会ったシューベルトやバッハ、そして学生時代に出会ったビルエヴァンスやマイルスデイビス、それらを融合させることがECMの美学だったという...

「マイルスとECMの師ジョージラッセルとの関係性」
ある評論では、ECMのエレクトリック・ジャズ要素の一部分を指して、エレクトリック・マイルスからの影響だという軽率な見方をされることもしばしばある。必ずしもそうではない。いつの時代もマイルスがジャズの歴史を更新してきた、という言い方をする人も少なくないが、本当にそうなのだろうか? かつてビルエバンスが作った曲を、マイルスの作曲に差し替えられることもよくあることで「お前の曲は俺のもの」みたいなジャイアン気質は、ある程度のジャズファンなら認識しているし、どこか憎めないところがあるのはマイルスの才能でもある。マイルスは、常に世界中の新しい音楽にアンテナを張り巡らせ、世界中どこでも飛んでいって誰よりも早く情報を得る執念を持っていた(あのジョージベンソンも似ているところがある)。ある意味、高名盗みの天才なのだ。例えば、ジミヘンが現れた時も、先にそれらをジャズに取り入れたのは、ラリーコリエルやジョンマクラフリン等のギタリストたちであって、マイルスは後追いだったのに、自分の手柄のように見せるのが上手かった。クールジャズの創始者はマイルスだという人もいるが、実はレニートリスターノの存在が大きい。モードジャズもマイルスが創始者とされてるが、元々モードとは教会音楽に使われていた旋法のことを指すのであり、モードジャズは、ジョージラッセルが発案した「リディアン・クロマチック・コンセプト」が基礎になっていることは承知の通り。特筆すべきは、マイルスの「Bitches Brew」は、ジョージラッセルの「Electronic Sonata」が元ネタである、という説もある。ということは、だ。フュージョンは「Bitches Brew」が始まりだ、という説もひっくり返るわけだ。初期のECMを支え、ECMの基盤を作り上げたヨーロッパを代表するジャズミュージシャン、ヤンガルバレク(sax)、ボボステンソン(p)、アリルドアンデルセン(b)、ヨンクリステンセン(ds)、そしてギタリストのテリエリピダル、彼らはジョージラッセルに師事したことでも知られている。しかも彼らはそのジョージラッセルの「Electronic Sonata」に参加していたのだ。すなわち彼らの音楽は、マイルスよりも早かった。つまり、ECM=コンテンポラリージャズの基盤には、ある意味、ジョージラッセル=リディアン・クロマチック・コンセプトがある、という見方もできるかもしれない。ジャズの歴史において、これだけ重要な事実にも関わらず、これまで誰も語ることがなかった黒歴史。いつの時代もマイルスがジャズの歴史を更新してきた、という偏った説に、今こそ異を唱えたい。

実は「ギター王国である」
そんな現代屈指のジャズレーベル「ECM」、実は「ギター王国でもある」という事実を、意外とギター史において語られてこなかった気がする。そこで今回は当店ならではの「ギタリスト」に焦点を当ててみたい。

キングクリムゾンから大友良英まで多大な影響を与えた伝説的ギターインプロヴァイザーのデレクベイリーは1970年に即興集団Music Improvisation Companyを率いてECM初参加、あのジェフベックにも影響を与えたであろう欧州ジャズロックの雄テリエリピダルは1971年ECMデビュー、1972年に現代アコギジャズ最高峰ラルフタウナー、1975年にジョンアバークロンビーがそれぞれECMでの初リーダー作を残している。後のElectric Bebop Bandの前身とも言えるPaul Motianのアルバム「Tribute」に、かつてBill EvansやKeith Jarrettと共演歴のあるセッションギタリスト、サムブラウンらが参加。Chick CreaのReturn To Foreverでも活躍したテクニカル系ギタリストのビルコナーズは1975年にECMデビュー。

そして今や現代ジャズの巨匠パットメセニーも、1976年にジャコパストリアスと組んだギタートリオで、ECMから鮮烈なデビューを飾った。そのパットメセニーの師匠でバークリーの教授でもあるミックグッドリックは1978年ECMに唯一のリーダー作を残す。ECMを代表するヴァイブ奏者Gary Burtonのバンドは、歴代ジムホールやラリーコリエル、ジョンスコフィールド、カートローゼンウィンケル、ジュリアンレイジ等を輩出した、ジャズギタリストにとっての登竜門的バンドだが、ECMではそのミックグッドリックが1973年に、パットメセニ-が1974年に、それぞれバトンを引き継ぐようにGary Burtonバンドで活躍したことも、ギターファンにとって感慨深いECMの重要な歴史である。

ブラジル音楽の大作曲家ピアニスト兼ギタリストのエグベルトジスモンチは1977年にECMデビュー、同年にECMワールド部門の重鎮ステファンミカス、デヴィッドシルヴィアンや坂本龍一等との共演歴もあるデヴィッドトーンは1982年にEveryman BandでECMデビューし1985年にECM初リーダー作を残す。1982年にエクスペリメンタルギタリストのスティーブチベッツ、1983年に現代アメリカーナジャズの巨匠にして浮遊系ギターの先駆的存在ビルフリゼール、今やECMの顔とも言えるジョンスコフィールドは1982年某系レーベルJAPOに残したPeter Warren(b)のリーダー作に初参加し、1986年と1987年にはかつてBill Evans(p)Trioで活躍したMarc Johnson(b)のリーダー作にビルフリゼールとツインギターでECMに参戦している。

意外なところでは、1986年にヴァイオリン奏者Shankar作品にスティーブヴァイが参加、1987年タブラ奏者Zakir Hussain作品にジョンマクラフリンが参加、1988年に現代音楽作曲家Heiner Goebbels作品にアートリンゼイとフレッドフリスが参加、1990年Dave Holland(b)Quartetにウェスモンゴメリーの再来ことケビンユーバンクスが参加しECM屈指の名盤を残してきた。そのほか、謎の南アフリカ出身ギタリストのスティーブエリオヴソン、ウィーン出身ギタリストのハリーペプル、ドイツ出身のギタリストHajo WeberとUlrich Ingenboldのデュオ、傍系レーベルJAPOから民族ジャズのOMやコンタクトトリオ等など。

もはや現代ジャズギターの基盤を作ったと言っても過言ではない錚々たるギタリストたちがECMに数々の名演を残してきた。

今現在も、ジョンスコを筆頭に、スティングのバンドで活躍したドミニクミラー、今やECM看板ギタリストのヤコブブロ、かつて坂本龍一と共演しYMOのサポートメンバーとして活躍したフェネスはユニットFOODに参加、現代最高峰ジャズギター奏者ウォルフガングムースピール、アンビエントジャズ先駆的存在アイヴィンオールセット、デヴィッドボウイ・バンド最後のギタリストとなったベンモンダー、作曲家としても評価の高いノルウェー出身ジャズギタリストのヤコブヤング、ロンドン新世代ギタリストのロブラフト、ハンガリー出身の超絶アコギストのフェレンツシュネートベルガー、アルゼンチン現代最高峰クラシックギター奏者パブロマルケス、セルビア出身のギタリスト兼作曲家マークシナン、世界的ウード奏者アヌアルブラヒム、人気の女性ギター奏者ジョフィアボロス、リュート界の名手ロルフリスレヴァン、イラン出身の女性ギタリストのゴルファムカーヤム等など...目が離せない逸材が次々とECMデビューを果たしている。


...ということで、
只今、創立55周年を記念して、ECM特集を開催中です!ギタリストのリーダー作から参加作まで、初版ドイツ・プレスを中心にオリジナル盤LPを多数出品いたしました!某系レーベルJAPOのオリジナル盤も少々出品中です!

▼是非ご覧ください▼
https://www.guitarrecords.jp/product-group/523

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